こわい物知らず、親知らず

私・夫・お嬢・坊や。4人家族の日々のこと。

ママの親知らず抜歯 第2章 抜歯八日目〜十一日目

抜歯八日目。

お嬢は、熱が下がり、見事に復活した。

坊やも下痢ではなくなっていた。

私も痛み止めを飲めば、活動できる。

もうこれは旅行に行くしかない。

 


歯痛と流血の母、

病み上がりお嬢、

下痢上がり坊や、

唯一無傷の父、

インクレディブル ファミリーだ。

 


痛み止めの眠気が怖いので、

運転は夫に任せ、日本海方面へ。

 


実は、2年前に車を持ってから、

私は、一度たりとも夫の運転で寝たことがなかった。

夫はペーパードライバー歴が長かったので、申し訳ないが、心のどこかで信用しておらず、

完璧かつウザい助手として、眼を光らせていた。

 


しかし、なんと、

この旅で、私は初めて彼の傍らですやすやと眠りについた。

痛み止めの効果たるや。

あまりに自分でも驚いたので、

彼にそのまま事実を伝えてしまう失礼さたるや。

歯と一緒に、気遣いの神経まで抜けてしまったようだ。

 

抜歯九日目。

旅行の醍醐味は食事である。

食事のタイミングで痛くないよう、

しっかり逆算し、痛み止めを飲んで臨んだ。

抜歯後、柔らかいものばかり食べていたが、

名物の刺身や牛肉は、使える右側の歯を駆使し、なんとしてでも食べた。

美味しさは、痛みを上回るのだ!

 


なんかいい感じに逆境乗り越えてます的な書き方だが、

もうここまで痛みが長引いているので、

ダメな人のパターンである。

 


抜歯十日目、

痛みは、徐々に徐々に、

牛歩の歩みで和らいでいた。

しかし、

左側の歯が全体的に染みるような感覚になったり、

左耳の近くが痛くなったりする時があった。

 


旅の帰路、高速道路で、必ず見ておきたい場所があった。

 


新潟県の「親不知(おやしらず)」。

 


親知らずを抜いた私が、

親不知を通る!

なんて事は、

親知らず!

(本当は知ってます。)

 


親不知は、

昔、親も知らないうちに子も流され引き離される、

交通の難所だったとのこと。

たしかに、キレイな海だが、崖っぷち。

 


私の親知らずも、難所だったから、

痛みが長引いたのだろうか。

この痛みは抜歯で避けられない通り道なのかもしれない。

そう、この崖を通らなければ目的地にたどり着けなかった昔の人と同じように…!

 


親不知にシンパシーを感じながら、

無事に旅を終えた。

翌日の抜糸を待つばかりである。

 


抜歯十一日目

やっと、正々堂々と病院に行ける日になった。

 


今日は、タンタンメン先生の不在。

日に焼けて頼り甲斐のありそうな、

山下真司を思い出す先生だった。

 


「痛みはどうですかねー?」

 


もうなんか色々痛いです。

正直にそう伝えた。

 


抜糸は一瞬チクっとするが、そこまで痛くなかった。

 


山下真司風の先生、

「下の歯、傷の治りが良くないねー。」

 


え、そうなの。

いや、やっぱり。

認めずにいたが、

もしや、ドライソケットってやつ?

 


すると、

「ちょっと、処置するねー。ガーゼお願い~」

 


あっという間に麻酔が打たれた。

痛い!

 


なんか消毒的な何かをされた。

マズイ!痛い!!

 


看護師さんが運んできたガーゼ、

なんか私の傷口にグイグイってしてない!?

痛い痛い痛い…!!!

 


今回の親知らず抜歯で、

見事に、

ベスト・オブ・痛みを受賞する処置。

おめでとう!!

 


起き上がった診察台の上で、

ハンカチで口を押さえ、しばらく固まった。

 


先生、

「このガーゼに軟膏塗ってあるから、

このままにしておいて、10日後にまた来てね。」

 


え?

ガーゼが歯茎の穴に入っている?

しかも、そのまま10日も生活する?

 


カルチャーショックだ。

目からウロコ。

歯茎からガーゼ。

 


どんな大きさのガーゼか知らないが、

私の歯茎の収納力、ハンパない。

我が家の押入れも見習ってほしい。

 


先生、

「この一週間、ちょっと抵抗力弱ったりしてたかなー」

 


思い当たる節があった。

夜泣き対応の睡眠不足。

そして、生理直前。

 


生理前は、ちゃんと考えれば、避けられたタイミングかもしれない。

 


「そんな痛かったら、無理せず、

土日でも盆休みでも、いてーって言って駆け込んでいいんだよ!」

 


何その、試合に負けたイソップを労うかのような山下真司感!

ここは、ラグビー場なの?スクールウォーズなの!?

 


休みの日に駆け込んで、トライしていたら、

もっと治りはよかったのだろうか…

 


そもそも、迷う性格なんだから、

休み前は、避けるべきタイミングだったのかもしれない。

 


這々の体で、なんとか運転して自宅に戻った。

痛みのせいなのか、顔色が真っ青だ。

痛み止めを飲んで、パッタリと寝込んでしまった。

 


こうして、ガーゼが私の左歯茎に住みついた生活がスタートする。

 

続く。